盛岡地方裁判所水沢支部 事件番号不詳 判決
主文
被告は、原告若槻久蔵に対し金一、〇九三、七九五円、同高橋兵治に対し金二五、〇〇〇円、および右各金員に対する昭和三三年三月二八日から各支払済に至るまで、夫々年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人等は、被告は、原告久蔵に対し金一、〇九三、七九五円、同兵治に対し金二五、〇〇〇円、および右各金員に対し、訴状送達の翌日から支払済に至るまで、夫々年五分の割合による金員の支払をせよ、との判決を求め、その請求原因として、被告は昭和二六年一二月一五日から上衣川農業協同組合(以下組合と略称)の参事に就任し、またその実弟である訴外高橋久幸は同組合の事務員として、木炭の購売および販売係をしていたところ、久幸は昭和二七年七月頃から同二八年二月末頃までの間に前記職務に従事中、木炭の売却代金等合計金一、三二六、八六五円を費消横領したので、同二八年四月二八日久幸の身元保証人である被告と組合間において、被告は前記損害の賠償として、その所有の田畑、山林、宅地、建物等の不動産一切を組合に提供して、その処分を組合に一任し、組合において右不動産を処分した売得金をもつて、久幸の組合に加えた前記損害の補償にあてる旨の契約が成立した。また原告らは訴外高橋民蔵外五名の組合理事と共に、組合において被告の不動産を処分し、賠償取立を完了するまでの間、組合の運転資金に使用させるため、昭和二八年五月一五日から同二九年四月二九日までの間に別紙目録記載の金額を、組合に対し返済期限並びに利息の定めなく消費寄託した、ところが被告はその後前記不動産の提供または現金賠償をしないので、組合において被告を相手方として水沢簡易裁判所に民事調停の申立をした結果、昭和二八年五月二八日同裁判所において、一、相手方は高橋久幸が上衣川農業協同組合に蒙らしめた損害金一、三二六、八六五円の弁償の責に任ずること。二、相手方は申立人組合が別紙記載(別紙省略)の不動産を前項の金員の弁済に充当する限度まで処分することを承諾すること。三、申立人組合は前項の処分に当つて相手方の希望を尊重して実施するものとする。四、相手方は第一項の金員を完済するまでは別紙記載(別紙省略)の不動産を他に処分する等いやしくも申立人組合に損害を与えるが如き行為をしないこと。五、申立人組合は爾後において高橋久幸が組合員に正当に貸付けた金員その他木炭業者等に売掛けた代金等で回収確実と判明したものが生じた場合はその分を第一項の金額より控除すること。六、申立人の要した本件調停費用中金五、〇〇〇円は相手方に於て負担し爾余の費用は各自弁とする、旨の調停が成立したのであるが、その後被告は前記久幸に横領の事実がなく、従つて賠償の義務がないとか、或は前記原告らの消費寄託をもつて恰も原告らにおいて久幸に代つて組合に対し、賠償義務を果すために弁済した結果、被告の身元保証債務は消滅したものとして、前記民事調停の無効を主張し、組合もまた被告に対する身元保証契約に基づく債権取立の手続を行なわないものである。よつて原告らは前記組合に対する消費寄託金返還請求権を保全するため、組合に代位して被告の組合に対する身元保証債務取立のため本訴請求におよんだものであるが、なお、原告久蔵は昭和三三年二月二七日訴外高橋民蔵、同佐々木彦市、同佐藤忠作、同佐藤種義、同高橋丑治、同阿部半治並びに原告兵治から、別紙目録記載の組合に対する右訴外人らの前記寄託金返還請求権(原告兵治の昭和二八年七月二日付金二五、〇〇〇円を除くその余の全部)を適法に譲渡を受けた結果、原告久蔵の組合に対する右返還請求権の総額は、金一、〇九三、七九五円、原告兵治の同請求権は金二五、〇〇〇円であると陳述した。
(立証省略)
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告らの主張事実中、被告が訴外上衣川農業協同組合の参事として就任していたこと、被告の弟訴外高橋久幸が同組合の事務員として在職中、同組合の木炭売却代金等を費消したこと(ただし費消金額、年月日は認めない)被告が同訴外人の身元保証人であつたこと、および昭和二八年五月二八日原告ら主張の調停が成立したことはこれを認めるが、債権譲受の事実は不知、その余の事実は否認する。すなわち訴外久幸に多少前記費消の事実はあつたが、昭和二八年四月二八日同組合第五回通常総会において、原告久蔵らが久幸の費消金全額を現金又は借用証書で穴うめをした結果、久幸と同組合との関係においては費消関係は存在せず、組合の久幸に対する損害賠償請求権なるものは消滅したのである。右穴うめの金額は、原告久蔵四七五、〇〇〇円、訴外佐々木彦市二五、〇〇〇円、同高橋民蔵二五、〇〇〇円(内一五、〇〇〇円は借用証書)、原告兵治二五、〇〇〇円(全額借用証書)、訴外佐藤忠作二五、〇〇〇円)、同阿部半治二七五、〇〇〇円(内一〇五、〇〇〇円は借用証書)、同高橋丑治二五、〇〇〇円並びに同佐々木彦市外五名連帯二一八、七九五円(全額借用証書)であるが、これは純粋の穴うめであり、原告久蔵らが同組合の理事者であつた責任上行なわれたものであつて、原告の主張するが如き運転資金として消費寄託されたものではない。従つて被告の久幸についての身元保証人としての組合に対する保証債務は、主債務の消滅によつて消滅したのでこれ以後の昭和二八年五月二八日付原告主張の民事調停は、調停の目的となつた旧債権の不存在によつて不成立となり、調停上の新債権は発生しないのである。従つて原告らは消費寄託金返還請求権および代位権を有しない。よつて原告らの本訴請求に応ずることはできないと陳述した。
(立証省略)
(別紙目録は省略する。)